多くのエンジニアにとって「技術的負債」という言葉は、システムの健全性を蝕む癌細胞や、いつか爆発する時限爆弾のように、ネガティブな響きを持つかもしれません。
クリーンであるべきソースコードに、見て見ぬふりをされた複雑さや場当たり的な修正が蓄積していく状況は、決して気持ちの良いものではないでしょう。
しかし、この技術的負債は本当に「絶対悪」として排除すべき存在なのでしょうか。モダンな開発組織は、負債を単なる悪とは捉えず、事業成長のための戦略的な要素として管理しています。
重要なのは、負債が生まれた背景を理解することです。
例えば、市場の変化に迅速に対応するため、完璧な設計を犠牲にしてでもスピードを優先した結果生まれる負債は、ビジネスチャンスを掴むための意図的な「ローン」と考えることができます。
問題なのは、このローンを無計画に放置し、利息が膨れ上がって返済不可能な状態に陥ることです。
優れた組織では、まず技術的負債を可視化し、それが将来の開発速度や安定性にどれだけの影響を与えるかをチーム全体で共有します。
そして、開発スプリントの一定割合を負債の計画的な返済に充てる、あるいは新しい機能開発の際に周辺コードを必ずリファクタリングするといったルールを設け、負債をコントロール下に置く努力を継続します。
技術的負債をゼロにすることは、変化し続けるビジネス環境において非現実的です。
大切なのは、負債の存在を認め、その影響を計測し、事業の推進力とシステムの持続可能性を両立させる最適なバランスを見つけ出すこと。
それは個人の技量だけでなく、組織全体の成熟度が問われる、高度なエンジニアリングの一部と言えるでしょう。